Scholar's Copyright Project考察

Creative Commonsのblogを斜め読みしていたら、「Scholar's Copyright work」というキーワードがアンテナにひっかかった。

Science Commons Counsel Thinh Nguyen has posted a response to a recently released statement by STM (the trade association for scientific, technology and medical publishers) on author addenda. This is an issue near and dear to our hearts, due to our Scholar's Copyright work.

Science Commons news: Response to STM statement on author addenda - Creative Commons


Scholar's Copyright workとはScience Commonsのプロジェクトの1つScholar's Copyright Projectのこと。

http://sciencecommons.org/:image=http://sciencecommons.org/wp-content/themes/scowp/images/scicomlogo.gif

Science Commons » Scholar's Copyright Project

そもそもクリエイティブ・コモンズが活動範囲を著作権の分野から科学的な研究発表の分野まで広げたのは2004年11月まで遡る。

Creative Commonsが活動領域を著作権の分野から特許や科学的な研究発表の分野にまで拡大しようとしている。

 カリフォルニア州スタンフォードに拠点を置くCreative Commonsは…新設されたScience Commons部門のディレクターには、起業家のJohn Wilbanksを起用した。

クリエイティブ・コモンズ、活動領域を特許や科学分野にまで拡大:ニュース - CNET Japan


ところでJohn Wilbanksとは…

http://www.popsci.com/scitech/article/2007-07/will-john-wilbanks-launch-next-scientific-revolution:image=http://www.popsci.com/files/imagecache/article_image_large/files/articles/wil_485.jpg

This photograph is licensed to the public under the Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 license by Fred Benenson: Photo by This photograph is licensed to the public under the Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0 license by Fred Benenson
Will John Wilbanks Launch the Next Scientific Revolution? | Popular Science

http://creativecommons.org/about/people/#34:image=http://creativecommons.org/images/people/wilbanks.jpg
John Wilbanks, Vice President, Science Commons
Started: Oct 2004
John Wilbanks comes to Creative Commons from a Fellowship at the World Wide Web Consortium in Semantic Web for Life Sciences.

People - Creative Commons

W3Cの訪問研究員だった方で、2004年以前から生命科学分野でのセマンティック・ウェブ技術に基づいた情報共有化を提唱されていたことが分かります。

W3CSemantic Web 技術に基づき、生命科学情報を相互接続されたデータネットワークに蓄積するという膨大な一連の作業が既に行われています。生命科学コミュニティからの多数の参加とともに、本ワークショップにより、今日の学術及び産業分野における先端技術に基づく研究開発を促し、より多くの情報共有の機会が明示的に提供されることを期待しています。」

広範で国際的な支持を集める生命科学分野への Semantic Web の応用に関する W3C Workshop を開催


文頭の「W3CSemantic Web」はこちら。こちらはこちらだけで1つのエントリが出来てしまうので今回はスルーします。

http://www.w3.org/2001/sw/:image=http://www.w3.org/Icons/SW/sw-horz-w3c.png

W3C Semantic Web Activity


さて、話をScience CommonsのScholar's Copyright Projectに戻そう。

John Wilbanks率いるScience CommonsがSPARC*1と開発したオンラインツールがScholar's Copyright Addendum Engine
著作者自身が、著作物(学術論文)の権利を保持する内容での出版契約書を作成できると云うワケだ。

SPARCが、"Science Commons"の名称で、著作者が著作物の権利を保持する内容での出版契約書を作成できるウェブサイトを立ち上げました。論文のタイトル、雑誌名、著作者の情報、出版社名、契約内容(いつウェブサイトで公開するか、等)を入力すると、PDF版の契約書ができあがります。

著作者に権利を保持する内容の契約書を作成できるサイト"Science Commons" | カレントアウェアネス・ポータル

Scholar's Copyright Projectについては論文「クリエイティブ・コモンズの進化と変容:ビジネスモデルとWeb2.0を巡って」に詳しい。

Scholar's Copyright Projectは、学問全般を対象として、学術論文の著作権を執筆者である研究者たちがより正当に主張できるためのライセンスを3種類提案している。3つのライセンスは共通して、学会誌などの印刷媒体に論文を掲載する際に出版社(学会)から送られてくる「著作権譲渡契約書」を問題視している。習慣として研究者が署名しているこうした譲渡契約書は、基本的にすべての著作権を出版社側に譲渡する内容となっており、研究者がその論文を自身のWebサイトで公開したり、他の学会において発表したり、または自身の所属する大学で講義目的に使用することも、法的には違法となってしまう。一方で、当然ながら論文は学会の販売価値に影響するコンテンツでもあることから、すべての権利を無条件で研究者が排他的に保持することも難しい。そこでSCの学術ライセンスは、ライセンスという形式をとらずに、著作権譲渡契約書に添付される「Addendum(補遺)」として提案されており、それぞれ、論文の流通の自由度に関する研究者と出版社の合意書として機能する。

こうしたSCの取り組みは、学術系出版社によって受け入れられるまでの時間を要するとはいえ、公正な流通を推進するオープン・アクセスの概念にのっとって、これまで学会による囲い込みが公然と行われてきた学術出版における知財流通に、根本的な変革をもたらそうとするものであるといえる。そしてこの変革は、研究者がより柔軟にかつ公正に、自身の学術著作に関する流通と収入を計画することを可能にするものであり、個人の研究者に注目した新しいビジネス習慣にもつながるといえる。

クリエイティブ・コモンズの進化と変容PDF(999K)


学術論文の著者に、次のようなメッセージで注意喚起して「ジャーナル論文の著者としてのあなたの権利を確保しよう」と呼びかけているSPARC

http://wwwsoc.nii.ac.jp/janul/j/projects/isc/sparc/author_rights/SPARC_Author_Addendum_updated.html:image=http://wwwsoc.nii.ac.jp/janul/images/SPARC/authorrights.png
出版者は完全な著作権の譲渡ではなく、論文を出版するための許可だけを必要とするはずです。個人的に、あるいは教育・研究活動を促進するために、著作物を利用する権利を保持してください。

ジャーナル論文は、しばしば何年もの学習、研究、厳しい仕事の集大成です。論文が読まれるほど、そして引用されるほど、その価値はより大きくなります。しかし、出版契約書において権利を譲渡してしまうことで、あなたがその利用を制限することになります。自分自身の知的成果物の所有権を譲渡する前に、その影響とオプションを理解してください。

| SPARC | Author Addendum


しかし、現実はどうか。


まだまだのようだ。


Google共同創設者Larry Page氏のこんな嘆きと呼びかけが現実を物語る。

http://www.news.com/2300-11395_3-6160376-1.html?tag=st.nl:image=http://i.i.com.com/cnwk.1d/i/ne/p/2007/larry_page5_550x391.jpg

Photo: Larry Page addresses AAAS | CNET News.com

最後に同氏は科学者らに対し、研究成果を電子的にもっと公開するように求めた。「Google Scholar」では科学的成果へのアクセスをオープンなものにしようと努力しているが、それでもまだ十分ではないという。

 「あなたがたの研究成果のほとんどは、これらの検索エンジンではアクセスできない。科学的知識の宝庫を開放し、誰もが参照できるようにしなければならない。どんな方法でも構わないが、行動を起こす必要がある」と同氏は述べた。

livedoor ニュース - グーグルのL・ペイジ氏:「科学者はもっと自分の研究の宣伝活動を」


国内におけるScholar's Copyright Projectの活動状況はどうか?
計画中ならよいが…出版社を敵対視するのではなく理解者として推進するには、既存の法の枠組みや流通の仕組みとの闘いとも云え、前途多難といったところか。


ここはクリエイティブ・コモンズ・ジャパンさんと、オープン・アーカイブ・コンソーシアムが手を組み、国内における普及・啓蒙の活動をしようじゃありませんか!
…と呼びかけて応じてもらえるような信頼性構築と組織化をしっかりやらなきゃ。


誰もやらないのなら、やろう。

自分がやらない限り世に起こらないことを私はやる。── ビル・ジョイ
I try to work on things that won't happen unless I do them.──Bill Joy


この言葉は必ずしも大きな成功をするという前提でしか発せないものではなくて、こういう心構えで現代を生きることがとても大切だと思います。

自分がやらない限り世に起こらないことを私はやる――これは、人生のさまざまな局面で自分のそばにおいておきたい言葉だと思います。

文藝春秋|梅田望夫著「ウェブ時代 5つの定理」|講演会録


こんな気持ちを共有できる仲間たちと一緒にオープン・アーカイブ・コンソーシアムをつくりあげていきたいと思う。:-)

*1:The Scholarly Publishing and Academic Resources Coalition